模型という名のモンスター
今日はビジネスの人をご紹介する日です。
「ひとつひとつの戦車、飛行機、艦船などの背景にはさまざまなドラマ、夢、歴史が秘められている
模型づくりの楽しさとは実物の背景にある物語をそれぞれの人が新たに読み解くことにある」
と語るのは田宮模型社長、田宮俊作さんです。
僕自身プラモデル世代ではありますが、プラモデルは作ったことがありません。
買ってもらえる友達のことを目を真っ赤にして見てました。
子供心に、いや、大人心にも
模型、プラモデルは愛好者を引きつけて離さない「何か」があります。
その何かを一生涯かけて追い求めた人です。
模型の世界では常識らしいですが、
「そのまま縮小しても模型にはならない」
んですね。初めて知りました。
つまり、スケールモデルといっても、実物の寸法がそのまま縮小されているわけではないということです。特に自動車模型には、大きなデフォルメが施されてそうです。
実は、人間の「視点」にその理由が隠されています。
僕たちが通常、自動車を見るときは、もちろん目線の高さから見ます。
ところが、模型は、「上から」見下ろすわけです。
田宮さんは、こう言っています
「ためしに一度、建物の三、四階くらいの高さから、道路に停車している自動車を見てください。ふだん見ている印象とずいぶん違うことがわかると思います。」
上から見下ろすと、クルマが実際よりも細長く見えるので、そのまま縮小してしまうと、なんだか不格好に見えます。
そこで、模型を作る際には、多少変形させる必要があるそうです。
その製作者が模型作品に吹き込むオリジナリティー
というか、デフォルメにこそ、
魂を感じました。
例えば資料集めの為に
海外の戦争博物館で露天に並べてある戦車の群を前に
食事を取る間も惜しんで
フィルム100本分の撮影をしたそうです。
冷戦真最中の頃に極秘のベールに包まれたソビエト製戦車の資料が
どうしても欲しくなり
わざわざソビエト大使館に出向いて
「戦車の図面、下さい。」と頼見に行ったそうです。
断れたそうですが、そのまま大使館から出たところを
公安局からマークされてしまったエピソードなどには
執念を感じます。
その問題の戦車はT-34だそうですが、
後日中東アラブ軍の使っていたソビエト製T-34がイスラエルで拿捕されたときに
その解体を見る為にイスラエルに行っています。
自分でポルシェ934ターボ
を購入して部品レベルまで分解したそうです。
そして組み立てられなくなって、ポルシェから技術者を呼んで
組み立てを見物したそうです。
技術者としてはどんな心境だったでしょうか笑
魂のクルマ、フェラーラリにもやはり魅せられていますね。
「フェラーリ312B」には格別の愛着があるといいます。
「昔は今ほど秘密主義ではなかった。今は秘密主義になってしまった」
「フェラーリに関して言えば、エンツォ・フェラーリ氏が元気なころは、完成した模型を50~60個御大に贈ればよく、(模型化の際に発生する)ロイヤリティなども不要だった」と語り、自由な雰囲気の中で取材でき、模型化に関するハードルも低かったそうです。
F1チームのほうからサーキットのピットでは取材が大変だろうから、ファクトリーに来いと言ってくれ、部品単位にばらしてくれたり、部品の寸法まで測らしてたりするなど、今ではまったく考えられないほどのオープンな環境の中で取材を進めていたそうです。
それらの人のつながりが、F1に限らずリサーチにとっては大切なものだとも語っています。
飛行機や戦車の取材についても、人のつながりによって、とても普通では取材できないようなところまで入れてもらえることがあったそうです。
尽きせぬ探究心は、技術者との対話にいきつくのですね。
イギリスで生まれでアメリカで爆発的に人気になったプラモデル業界ですが、レースでの競技を想定した内部構造にまでこだわっていった点、
発想力と材質など細部へのこだわりが世界の田宮を育てました。
ジョン・ムーア監督の映画「フライト・オブ・フェニックス」を思い出します。
砂嵐か何かが原因でテクニカルトラブルを起こして砂漠のど真ん中に墜落同然で不時着した輸送機とその乗組員たちのサバイバルを描写した映画です。
そのなかの一人が航空設計技師を自称する男が
墜落した輸送機のまだ使える部分を利用して、軽飛行機を設計し直して
改造を試みるという話に展開していくのですが、
実は彼の正体はプラモデルの技師でした。
映画の結末についてはみなさんで見て欲しいですが、
模型といってバカにしていた他の生存者が、
彼の熱意に動かされていく様を思い浮かべながら
ものを作る情熱と、そこに吹き込まれる魂は
その大小や用途に関わりなく、「何か」を吹き込んでいるのだなと
あらためて思い起こさせられました。
それはプネウマといえるものかもしれません。
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